人口減少時代をグラフで読み解く

人口減少の時代に起きる様々なことをグラフにして考察

乳児死亡率と出生率が相関するのは「子孫の量と質の間でトレードオフ」

世界113ヵ国の合計特殊出生率(縦軸) 乳児死亡率(1,000人当たり)  2021年

 

2021年時の乳児死亡率(1歳未満死亡率)と合計特殊出生率の世界113ヵ国の散布図です。
昔から言われていることで、出生率の低下に一番寄与している要因は「乳児死亡率の低下」ということでグラフにしてみたところ相関が強く0.86でした。
下記のサイトでも「乳児死亡率」と「出生率」の相関は0.93と非常に高いと言われております。

日本だけでない「世界的な人口減少」は不可避だ 「人口・出生率・死亡率」の深い関係を分析 | ソロモンの時代―結婚しない人々の実像― | 東洋経済オンライン

 

2021年日本の乳児死亡率は1.7/1000人 で、世界でも最も低い値になっております。

 

日本の乳児死亡率(1歳未満) 1919年~2021年

日本では1919年に乳児死亡率が17%でしたが、100年後の2021年では0.17%と、1/100に激減してます。
日本だけでなく世界各国が乳児死亡率が1900年以降に激減して、比例するように出生率が低くなってきてます。

 

日本の乳児死亡率(1歳未満)と出生率 1925年~2021年

青線が乳児死亡率(1000人当たり)、赤線が合計特殊出生率です。

 

日本の合計特殊出生率で一番古く確かなデータが1925年の5.11で、そこから5年間隔で合計特殊出生率と乳児死亡率(1歳未満死亡率)をグラフにしてみました。
乳児死亡率が1/100になり、出生率が1/4になっています。
20世紀になり世界中で乳児死亡率が低下した明確な要因は分かってはいないようですが、一説には「水道水の塩素殺菌の導入」により、細菌やウィルスから子供を守ったのではと言われてます。

塩素消毒 - Wikipedia

 

日本の乳児死亡率が世界一低い理由は、水道水の基準が世界一厳しく細菌やウィルスを排除しているからかもしれません。

 

哺乳類の1歳未満死亡率

1歳未満死亡率を他の哺乳類や過去の人類や他の国と比較してみました。
犬は23%、日本猿が40%、ライオンやキリンが60%というデータがありました。
江戸時代では「大名の乳幼児死亡率 」を研究したデータを参考にしています。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jps/24/0/24_KJ00009383846/_pdf

本来は人間の乳児死亡率が20%ほどだったものが、100年前から急激に死亡率が激減して世界的に寿命が伸びて出生率が減ったということになります。

 

出生率と乳児死亡率に相関があるか否かは100年以上前から議論】

 

1916年京都大学 乳児死亡率と出生率の関係はないのではという論文

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/127042/1/eca0031_125.pdf

 

1932年京都大学 乳児死亡率と出生率の関係はないのではという論文

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/130252/1/eca0356_889.pdf

 

平成17年の内閣府では、乳児死亡率の低下が出生抑制になったと言っている

平成17年版男女共同参画白書 | 内閣府男女共同参画局

 

2004年内閣府 乳児死亡率1%以下では出生率2.0以下になるので人口を維持できない

https://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/syosika/houkoku/pdf/gaiyouban.pdf

 

 

【2015年オックスフォード大学 子孫の量と質の間でトレードオフ

出生率と乳児および若年者の死亡リスクとの関係を理解することは、人口統計学者や生物学者の長年の関心となっています。
進化生物学に由来する生活史理論では、生物には予算が限られており、子孫の量と質の間でトレードオフに直面するという。出生率が増加すると、個々の子孫に投資できる時間とエネルギーが減少し、死亡する可能性が高まります。

 

結論として、我々は、伝統的な自然な出生条件下では、(1) 出生率と死亡率は密接に関連していると提案します。 (2) 生殖能力の根底にある生理学的プロセスは、個人の状態(エネルギー入力と貯蔵の観点から)、既存の投資容器、および出産間隔とその後の乳児死亡率との間の環境によって変化する関係に合わせて調整されている。 

https://academic-oup-com.translate.goog/book/8256/chapter/153854631?_x_tr_sl=en&_x_tr_tl=ja&_x_tr_hl=ja&_x_tr_pto=sc

 

 

【進化生物学に由来する生活史理論のトレードオフとは】

養育に重点を置いた場合,子どもの数を減らす代わりに,個々の子どもに多くの資源を配分し,子どもを他個体 / 多種との競争の上で優位な個体にすることができる。
つまり,ここでも成長・繁殖との間と同様のトレード・オフの関係性がみられる。

https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/records/30968

 

 

【子供に受験競争や経済的生存競争を勝ち抜くことを期待することで少子化になるのか】
オックスフォード大学の論文では、子供が生存競争を勝ち抜くために親が投資できる資源が絞られるために少子化になるということのようです。乳児死亡率を減らすために出産数を減らす、それが少子化になるということなのでしょう。


世界一少子化の韓国では受験競争が激化していて、中国でも大学卒業しても就職先がないほど学歴競争が激化して、中国の合計特殊出生率が1.09になっています。現在の自由競争の資本主義社会では、生存戦略として子供を少なくするというのは自然な選択なのかもしれません。

 

 

【乳児死亡率が1%以下で合計特殊出生率が2以上の国はあるのか】

この記事の最初の散布図2021年乳児死亡率と出生率の比較で、乳児死亡率1%以下で出生率2.0以上は6ヵ国はでした。

 

イスラエル
サウジアラビア
クウェート
レバノン
オマーン
カザフスタン

 

中東のイスラム教の国とイスラエルユダヤ教)でした。
イスラム教やユダヤ教では、資本主義での生存戦略とは違い、子孫の量を優先する教えがあるから、子孫の量と質の間でトレードオフに直面しないのかもしれません。

 

【113ヵ国の乳児死亡率と合計特殊出生率

  乳児死亡率 合計特殊出生率
Afghanistan 43% 4.6
Albania 8% 1.4
Algeria 19% 2.9
Angola 47% 5.3
Argentina 6% 1.89
Armenia 10% 1.6
Australia 3% 1.7
Austria 3% 1.48
Azerbaijan 17% 1.7
Bahamas, The 11% 1.4
Bahrain 6% 1.8
Bangladesh 23% 2
Belgium 3% 1.6
Bhutan 23% 2.6
Bolivia 20% 2.6
Botswana 28% 2.8
Brazil 13% 1.64
Bulgaria 6% 1.58
Cambodia 21% 2.3
Cameroon 47% 4.5
Canada 5% 1.43
Chile 6% 1.54
China 5% 1.16
Colombia 17% 1.72
Costa Rica 9% 1.53
Croatia 4% 1.58
Cuba 4% 1.3
Czechia 2% 1.83
Denmark 2% 1.72
Dominican 27% 2.3
Ecuador 11% 2
Egypt 16% 2.9
Estonia 2% 1.61
Ethiopia 34% 4.2
Finland 2% 1.46
France 4% 1.8
Gabon 29% 3.5
Germany 3% 1.58
Ghana 33% 3.6
Greece 4% 1.43
Guatemala 20% 2.4
Hungary 3% 1.59
Iceland 3% 1.82
India 26% 2.03
Indonesia 19% 2.17
Iran 11% 1.7
Iraq 21% 3.5
Ireland 3% 1.72
Israel 3% 3
Italy 2% 1.25
Jamaica 11% 1.4
Japan 2% 1.3
Jordan 13% 2.8
Kazakhstan 9% 3.1
Kenya 28% 3.3
Korea 2% 0.81
Kuwait 8% 2.1
Latvia 3% 1.57
Lebanon 7% 2.1
Libya 9% 1.5
Lithuania 3% 1.36
Luxembourg 3% 1.38
Madagascar 45% 3.9
Malaysia 7% 1.8
Mexico 13% 1.82
Mongolia 13% 2.8
Morocco 15% 2.3
Namibia 29% 3.3
Nepal 23% 2
Netherlands 3% 1.62
New Zealand 4% 1.64
Norway 2% 1.55
Oman 9% 2.6
Pakistan 50% 3.5
Panama 12% 2.3
Papua New Guinea 34% 3.2
Peru 11% 2.19
Philippines 21% 2.7
Poland 4% 1.33
Portugal 2% 1.35
Qatar 5% 1.8
Romania 5% 1.81
Russia 5% 1.49
Rwanda 30% 3.8
Saudi Arabia 6% 2.43
Senegal 29% 4.4
Singapore 2% 1
Slovak 5% 1.63
Slovenia 2% 1.64
South Africa 26% 2.37
Spain 3% 1.19
Sri Lanka 6% 2
Sudan 39% 4.5
Sweden 2% 1.67
Switzerland 3% 1.51
Syrian 18% 2.7
Tajikistan 28% 3.2
Tanzania 34% 4.7
Thailand 7% 1.3
Türkiye 9% 1.7
Turkmenistan 36% 2.7
Uganda 31% 4.6
Ukraine 7% 1.3
United Arab Emirates 5% 1.5
United Kingdom 4% 1.53
United States 5% 1.66
Uruguay 5% 1.5
Uzbekistan 13% 2.9
Venezuela, RB 21% 2.2
Viet Nam 16% 1.9
Yemen 47% 3.8
Zambia 40% 3.8
Zimbabwe 36% 3.5

 

【日本の乳児死亡率の推移 1,000人当たり】

1919年 170.5
1920年 165.7
1921年 168.3
1922年 166.4
1923年 163.4
1924年 156.2
1925年 142.4
1926年 137.5
1927年 141.7
1928年 137.6
1929年 142.1
1930年 124.1
1931年 131.5
1932年 117.5
1933年 121.3
1934年 124.8
1935年 106.7
1936年 116.7
1937年 105.8
1938年 114.4
1939年 106.2
1940年 90
1941年 84.1
1942年 85.5
1943年 86.6
1944年 76.7
1945年 61.7
1946年 62.5
1947年 60.1
1948年 57.5
1949年 49.4
1950年 48.9
1951年 44.6
1952年 39.8
1953年 40.6
1954年 40
1955年 34.5
1956年 33.7
1957年 30.7
1958年 28.6
1959年 26.4
1960年 23.2
1961年 20.4
1962年 18.5
1963年 19.3
1964年 14.9
1965年 15.3
1966年 14.2
1967年 13.1
1968年 12.4
1969年 11.7
1970年 11.3
1971年 10.8
1972年 10
1973年 9.3
1974年 8.9
1975年 8.4
1976年 7.9
1977年 7.5
1978年 7.1
1979年 6.6
1980年 6.2
1981年 6
1982年 5.5
1983年 5.2
1984 5
1985年 4.8
1986年 4.6
1987年 4.6
1988年 4.4
1989年 4.5
1990年 4.3
1991年 4.2
1992年 4.3
1993年 3.8
1994年 3.7
1995年 3.6
1996年 3.4
1997年 3.2
1998年 3.1
1999年 3
2000年 3
2001年 2.8
2002年 2.8
2003年 2.6
2004年 2.6
2005年 2.6
2006年 2.4
2007年 2.3
2008年 2.3
2009年 2.2
2010年 2.1
2011年 2.1
2012年 1.9
2013年 2
2014年 1.9
2015年 1.9
2016年 1.9
2017年 1.8
2018年 1.7